いま成長と分配の好循環を実現するため、賃金引き上げの流れを地方にも波及させていくことが求められている。

すでに国は各種補助金において大規模賃上事業者には補助率をかさ上げする一方、直轄工事の総合評価方式の入札においては賃上加点措置を講じるなどの取組を実施している。

他方、地方自治体では熾烈な低価格競争が続いており、かつて私が奉職した札幌市では最低制限価格でのくじ引きが多発している。その原因は「最低の価格をもって申込みをした者を契約の相手方とする」(地方自治法第234条)のが原則だからである。国同様、例外的に価格以外の要素を加味する総合評価落札方式が一部に導入されつつあるが、私が調べた範囲では、なお提示価格の低い方が高い評価を得る仕組となっているのが実態である。

官庁の発注には、行政サービスを展開するための「仕入原価」に相当する材・サービスの購入と地域の魅力(付加価値)を高めるインフラ整備・維持を目的とする土木・建築工事や公共施設メンテナンス事業がある。前者については「最低の価格」を追求することは当然であるが、後者については地域にもたらされる「付加価値額」に着目することを提案したい。付加価値額とは企業が事業活動により新たに産出した価値であるから、受注により当該企業が地域にもたらす効果額に他ならない。財務的には営業利益、人件費、減価償却費の合算で、人件費は地域の消費行動に還元され、減価償却費は生産性向上に向けた設備投資の結果である。また、適正な利益は企業の存続に資するものであるから、いずれも過度にしわ寄せがいくことの無いよう適正に評価されるべきである。

そもそも賃上げのインセンティブを働かせるためには落札評価の加点措置だけでは不十分であり、事業者からすれば「賃上げ可能な価格」で受注することが肝要である。このため官庁の見積価格(予定価格)には、足許の賃金・物価上昇を速やかに反映する必要があるが、統計公表値をベースとする限りタイムラグは避けられない。事後的に設計変更や物価スライド措置が講じられたとしても低価格受注であることには変わりなく、現在の入札契約システムでは賃上げはおろか地元企業が生き延びることすら困難となっている。

今こそ、低価格で受注するよりも高付加価値額を生み出す受注企業の方が経済の好循環をもたらす地域貢献度が高いという観点からの公契約の仕組みづくりが必要である。