今、札幌都心部が大きく変貌しようとしている。二匹目のどじょうを狙った冬季オリ・パラ招致はどうやら挫折となりそうだが、あれから50年、建築物の建て替え時期を迎えていることには変わりなく、再開発の機運は旺盛だ。

(以下、公募中の札幌市都市景観委員(市民委員)に応募したものです。)

 私が好きな景観は、半世紀以上前から今も残る都心4丁目にある日之出ビルの地上と地下を結ぶ階段の光景です。この階段は単なる通路ではなく、いわゆる路地裏の雰囲気を醸し出しています。
 地上部から降りていくと、地下1階の踊り場に面して書店の明るい入り口と喫茶店の薄暗い入り口があります。さらに降りていくと地下鉄駅へのビル出口には立ち食いそば店があります。喫茶店は人が出入りする瞬間に店内を覗き見ることができ、立ち食いそば店は入れ代わり立ち代わりで客が絶えることがありません。ビル内の階段なのに、地下の世界を覗き見に行くようなワクワク感がある秘密の通路となっています。言ってみれば「垂直の路地裏」であり、まさに都会ならではの合理性・利便性と界隈性(賑わい)を具現化する設計になっていると思います。


 翻って現在、札幌都心部は再び大きく変わろうとしています。そうした中で、札幌が第 二の「東京砂漠」とならないためには、単に建築美を競ったり、収益性追求のみに走ってはいけないと思います。
 かつて札幌の街並みは「家ごとにリラの花咲き札幌」(吉井勇)「しんとして幅広き街の・・・玉蜀黍の焼くるにほいよ」(石川啄木)と詩われました。いずれも人々の五感に訴える景観を表現したものと思います。
  私は研ぎ澄まされた「感性に訴える景観」を創出することによって、いつまでも札幌が抒情あふれる“詩になる都会”であり続けてほしいと思っています。