R6.5.29読売新聞報道によると、熊本市交通局と県内バス事業者5社は、Suicaなど全国の公共交通機関で相互利用ができる交通系ICカード決済の利用をシステム更新時にあわせて廃止すると発表した。その理由は、熊本市長によると「更新のコストが異常に高い」からで、今後も更新を断念する事業者や自治体が多く出てくるであろうという。
実は15年ほど前、札幌市でもICカード決済を導入する際に「長いものに巻かれる」のが得かどうか、大いに悩んだ。それまで札幌には磁気カード方式ながら、全国に先駆けて市営地下鉄と民営バスを1枚で利用できる「共通ウィズユーカード」というものがあった。すでに市内事業者別の運賃清算システム等が構築されていたことから、これをベースに開発したのが現在導入されている独自のICカード決済システム「SAPICA」である。
当時、Suicaグループからは全国利用のメリットや将来性について猛烈な働きかけがあり、関東の研究所も見学させてもらった。そこには全国各地の改札機が設置され、相互利用を可能とする研究開発が不断に行われていた。ただ全国展開ゆえに、日本のどこかで路線(駅名)の新設・廃止となった場合にはデータ更新が必要となる。その経費は全国の事業者で負担するので個々の事業者にとっては微細となるだろうとのことであった。
そこで私が思うに、軌道系の新設は大都会では今後もあり得るし、バスについては地方部で路線の改廃があるのは日常茶飯事である。言ってみれば大都市圏で路線が増加したり、九州でバス路線の改廃があった場合でも北海道の事業者がその一部経費を負担することになる・・・これでは札幌市内の脆弱なバス事業者の納得が得られるはずがないと直感した。
結果、札幌市は独自のローカル・システムであるSAPICA導入を決断。そのため、全国利用できないガラパゴスと言われ続けたが、今回の熊本市の決断により、図らずも当初の懸念が現実化した形となった。
多大な開発費を要するIC化では、長いものに巻かれた方がいいという考え方もあると思うが、メンテナンス経費がブラックボックス化することは、事業者の理解が得られないとの思いは期せずして当たった形となった。
それ見たことかと言いたいが、時代は変わりつつある。今後は銀行系などのクレジットカードによるタッチ式決済が普及し、結局はSuicaもSAPICAもガラパゴス化していくことは避けられないであろうと思っている。