社会人一年生、札幌市職員として最初に実践配置となったのは豊平区役所の税務であった。先輩と二人で滞納世帯を訪問し納税を促す外勤業務だ。ある日、玄関先で奥さんが「主人は足を怪我して働けなくなった」などと言い訳を繰り返していると、奥の部屋からズカズカと音を立てて男性が出てきて「払うものは払う!」と言いながら1万円札を私たちに向けて放り投げて戻っていった。

私は歩けないはずの主人が出てきたことに驚いたが、先輩は平然とお札を拾い、領収書を切って奥さんに渡して玄関を出た。外に出て少し歩くと、先輩が「今のは“コレもん”だ」と右頬を斜めに指を切ってみせた。事前にその筋の組員と知っていながら訪問したらしく、税金の徴収業務にプライドをかけている先輩を誇らしく思った記憶がいまも鮮明に残っている。

さて、この10月から適正な納税の実現を目的としたインボイス制度が導入された。一部から反対の声が出ているが「税負担の押し付け合い」などの批判は、平成元年(1989年)消費税導入時の混乱を知らない人たちの誤解によるものだと思う。当時、公営企業の経理部門の私たちチームは「税込」「税抜」の金額精査に日々明け暮れた。この経験からすればインボイスにより正確な税額が記載されている書類を受け取ることができることは歓迎すべきことである。

納税は国民の「義務」の一つとされているが、いま個人事業主となった私にとって、納税は「義務」というよりもむしろ「誇り」である。なぜなら納税するほど売り上げがあるということの証だからだ。かつて“コレもん”から教えられた「払うものは払う」の精神を私も貫きたいと思っている。